タケウチCarlの地平線

都内在住31歳の独身サラリーマンが、日々木工や読書、散歩などを楽しみつつ、いつか脱サラして小屋暮らしや旅暮らしをすることを夢見るブログ

『近代絵画史(上)/高階秀爾』のラフなデッサン

概要

 印象派シュールレアリスムといった芸術運動は、偶然に突如として現れたものではなく、当時の時代背景の下、生まれるべくして生まれてきたものだと著者はいいます。そして、絵画のかかれた状況、歴史的背景を明らかにすることによって、絵画はよりいっそう美しく、感動的なものになるといいます。
 この本は、上述の視点に立って、近代絵画の歴史を解き明かしたものです。上巻では、印象主義が現れる下地が整っていく19世紀初頭や、印象主義が現れる1870年代、そして崩壊した後の19世紀末までを描いています。
 普段絵画といえば、歴史性よりも感性や創造性が大切だと思われがちだと思います。このような中で、歴史の重要性を教えてくれる新鮮な本であり、絵画に対する視野が広がること間違いなしです。
 このとても面白い本を、単に紹介するだけでなく役に立つように、ここで全体をラフにデッサンしたいと思います。

摘要

  1. 近代絵画は、普通は19世紀後半の印象派の運動とともに始まるとされます。近代の特質は「作家各々が自己の個性・内面性・主観性を追求するようになった」ことであり、そのため近代は「様式」が通用しなくなった時代だとも言われます。
  2. 近代以前の絵画(古典主義)は、絶対的な美のルールが決まっているアカデミックなものでした。古典主義は、人間にとって普遍的な理性への信頼が根底にあり、人間にとって共通な理想の美を目指したものでした。
  3. これに対してロマン主義が現れました。ロマン主義は、美のアカデミックな規則を否定すると同時に、個々の芸術家の個性に根ざした様々な美があるという立場をとるものでした。ロマン主義において特筆すべきことは、風景画に自己の心情を投影してそれを表現しようとする、新しい自然観が現れたことです。こうしたことから、唯一絶対の理想の美を否定し、それぞれの芸術家の内面を反映した無数の「個性的な美」の存在を主張しました。
  4. ロマン主義の出現は、フランス革命によって絶対王政の社会構造が否定され、市民階級が台頭し、それぞれの市民が自由を得たという時代背景と無関係ではないと言えます。
  5. ロマン主義が既成の権力に反抗する運動であった一方で、絵画のアカデミズムは新古典主義に引き継がれます。これはデカルトによって確立された理性への全面的な信頼や、当時重要さを増していた科学への信頼が土台となっており、人々は、科学における真理のように、芸術に絶対的な理想の美が存在すると信じました。
  6. 以降、アカデミックな権力である新古典主義と、既成の権力を転覆しようとする革命であるロマン主義の対立が続くことになりました。
  7. ここに写実主義が現れます。これは「対象を目に見えるとおりに描き出す」こと自体を目的とする思想です。どういうことかというと、ロマン主義では「個々人の想像力の世界」が、新古典主義では「理想の美の世界」がそれぞれ描かれましたが、これらはどちらも当時の19世紀世界そのものを描いたものではありません。ところが写実主義は、想像でも理想でもなく「目に見えるものを描く」ことを目的とする主義というわけです。
  8. このようにして、写実主義においては、今までテーマとはなりえなかった田舎の小村の風景や、無名の庶民や労働者といった身近な対象が、単に風俗的な興味ではなく、芸術のメインテーマとして取り上げられるようになりました。
  9. 印象派は、ロマン主義写実主義に関連した画家たちに影響を受けて現れました。印象派は、自己の感覚世界を重んじ、キャンバス上に主観的な世界を正確に再現しようとしました。このように、印象派写実主義を一層徹底するという意図がありました。一方で、個人の感覚世界に対する絶対の信頼感があるため、印象派の画面構成は次第に現実離れしたものとなっていきました。
  10. 印象派の画家は、物体に固有色があるという考えを否定して、世界を色の輝きによって捉えようとしました。これは、色に物体を離れた自立性が与えられたことを意味する一方で、画面から明確な形が失われていくことも意味します。結果として、印象派の絵画は多彩な色が交錯する目が眩む世界になってしまいました。そこには合理的な空間構成も、形態把握の意思もなく、あるのは徹底的な感覚世界でした。
  11. 印象派の画家の中でも、徹底的には感覚的になれなかった者たちにとっては、印象主義は不満の残るものでした。そのため、当然の成り行きとして再び合理的主義的な、知的な秩序と構成を求めるようになりました。こうして、印象派の画家たちはそれぞれ新しい方向に向かって行き、印象派グループは解体しました。1980年代中ごろのことでした。
  12. 印象派グループの解体は、さまざまの新しい方向への探求を生み出しましたが、その中でも特に新印象主義象徴主義が注目に値します。
  13. 印象主義は、印象主義が感覚的に行っていた光の表現を、いっそう意識的、科学的に論理づけて、体系化することに成功しました。その一つが「点描画法」であり、印象派の発明した「色彩分割」をいっそう完全に実現するための手法となっています。
  14. 象徴主義は、印象主義があまりにも徹底して「目に見えるもの」だけを描くので、絵画としては表層的なものになっていることの不満から現れたものです。象徴主義にとって、絵画は、単に目で見える世界をそのまま再現するものではなく、目に見えない内面の世界にまで探求の目を向けるところに本質的な役割があると考えました。

終わりに

 個々の画家の名前を挙げ始めると際限が無いので、ここでは主義の大まかな変遷に留めました。本では個々の画家にも踏み込んでいることはもちろんのこと、図版が多数で大変理解しやすいものとなっています。