カールの曲がった地平線

都内在住31歳の独身サラリーマンが、日々木工や読書、散歩などを楽しみつつ、いつか脱サラして小屋暮らしや旅暮らしをすることを夢見るブログ

マックス・ヴェーバーの『プロ倫』が出てくる雑記

最近同じ職場に、面白いなと思う人がいる。その人は社会哲学が好きで、空き時間や飲み会の後で、マックス・ヴェーバーについて熱く語る。話しながら浮かべる目尻の皺がその幸福感を物語る。会社に勤めながら学術的な探求心を持っている人は稀だから、こういう人は興味深い。貴重だ。僕はとても好きなタイプの人間だ。


その人はマックス・ヴェーバーを仕事上も必要だと考えている。例えば、マックス・ヴェーバーの論文『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』では、「プロテスタントの禁欲的な精神態度が資本主義の成立に寄与した」ということが精緻な議論によって論証されるようだが、これを基礎として、社会(企業)の発展においてある種の禁欲が必要であるとし、過剰な欲深さを抑制するような企業ルールを策定しようとしている。


ところで、会社の仕事は大抵が個別の状況に対して臨機応変に対処するものであり、しばしば泥臭さや力技な面がある。普遍性を探求する哲学とは相いれないところがある。また、会社の意思決定では時に客観的な事実よりも、説明の仕方や経営側のスタンスというものが大事になってくる。


このようなことから考えると、マックス・ヴェーバーを業務に応用する試みは失敗に終わるだろうと僕は思う。しかしこう考えても、この人に感じる魅力が減るものではない。


僕はそれまでヴェーバーもプロ倫も知らなかったのだが、話を聞いているうちに、少し興味が出てきた。この人が熱を入れている『プロ倫』とは一体どんなものなのか?

マックス・ヴェーバーの『プロ倫』

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)
世界的に有名な論文だけあって、論旨を説明しているサイトが多数ある。Wikipediaにも要旨が載っており、これだけを読んでも大まかに内容を把握することができる。

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 - Wikipedia

デカルトの『方法序説』の怪しさ

プロ倫をいきなり読み始めるのは危険に感じる。それは、読むに足りる背景や知識がないということもあるが、哲学について感じる怪しさもある。この怪しさを『方法序説』を例にして説明したい。
方法序説 (岩波文庫)

まず断わっておくが、僕は『方法序説』は名著だと思っている。それは、前半部分において、デカルトが哲学的な問いを考え始めるまでの経緯や、問題を解決するために考えだした原理、そして「全てが不確か」だと仮定しつつも当座の行動に支障が出ないようにと定めた行動原理などが書かれており、これが大変面白く、参考になるからだ。


では、『方法序説』に感じる怪しさは何かというと、それは後半部分にある。後半では、前半に述べた問題解決方法を、各種の問題に適用していく。そこで有名な「我考える、ゆえに我あり」が登場する。デカルトは、これを疑いのない事実(前提)として、推論を重ね、最終的に神の存在を導くのである。「自分が考えている状態にある」ことと「神が存在する」ことは無関係に思えるので、全体として見ると奇妙な結論となっている気がする。せっかく素晴らしい原理を導入しているのに、その応用結果がおかしいので、とてももったいない。


こういえないだろうか。仮に一つ一つが精緻な推論に思えるとしても、推論を重ねていくうちにそれぞれの誤差が積み重なり、最終的には誤った推論となりえる、と。ちょうど、帳簿において、各項目の金額を一つ一つ足していく際に、どこかでミスが発生するようなものだ。


一方で、計算の仕方には少なくとももう一種類ある。つまり、総合計をざっくりと推測することだ。例えば、前月から今月にかけて、総合計が増大したか減少したかくらいは、大まかな情報から分かるかもしれない。個別に足したものがこれと逆の動きならば、どこかで計算が間違っている可能性が高い。


教訓的にまとめると、個々の推論だけでなく、全体としての整合性を考えることが大切だといえる。

魔窟へ入る前に

全体的な視点を失わないために、ざっくりとした質問を考えてみました。

  • プロテスタンティズムのいかなる性質が、資本主義を生む要因となったのか。
  • 同じ性質を持つ他の宗教においても、同様に資本主義を生むと言えるのか。
  • 資本主義発生の要因を追究することに、どのような意味があるのか。
  • 資本主義発生の要因はこれだけか?他にも様々な要因があるとするならば、議論で扱われる要因は主要因と言えるのか。
  • プロテスタンティズムの精神を失った資本主義は、どこへ向かっていくと著者は考えているのか。
  • ニヒツ(無の者)であったとして、どのような問題があるのか。鉄の檻に入ったからといって、どのような問題があるのか。
  • 著者は、今後のあるべき姿をどのようなものとして思い描いているのか。
  • 現在の状況について、役立つ示唆が得られるか。


(最後に:飽きっぽいので、読まない可能性が高いと思います。実際、Wikipediaでも十分な気がします)